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高知地方裁判所 昭和30年(行)1号 判決

原告 高知双葉講

被告 高知地方労働委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和三十年十一月二十一日原告に対してなしたる別紙記載の内容の命令は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、

(一)  原告高知双葉講は、約二百五十名の講会員を擁し、各講員が一口三十円、五十円、乃至百円の日掛を以て講金を積立て、毎月講会を開催して落札者を定める庶民の金融機関であり、仲井兼熊は、講会員の委嘱により、昭和二十九年六月以降原告高知双葉講の理事長として同講の集金、講会の開催、講金の支払等全般にわたつて同講の運営に関する監督責任を有するものである。

(二)  原告は、昭和三十年四月十三日日掛講金の集金人として、訴外有藤利子を雇傭した。

その雇傭条件は次の通りであつた。

(1)勤務時間は、午前九時より午後五時迄。(2)毎日講会事務所に出勤の上集金事務をなし、午後五時迄に講会事務所に帰着して、その日の集金を講会の日計表に記入し、集金事務の報告をなし、その集金全部を講会に引渡すこと。(3)日掛講金に付、集金を過怠するときは、集金成績不良となるので勤務を過怠せぬよう特に注意すること。(4)集金に関する事務は、正確に報告し、絶対に間違のないよう責任を持つこと。(5)集金担当区域は、講員約四十名。(6)給料は月、四千円、各月末払。(7)雇傭期間定めなし、

(三)  然るに右有藤利子には、次の如き事由があつたので、原告は、昭和三十年八月二十四日同人を解雇した。解雇理由は次の通りである。

(イ)  勤務状態不正確並びに職務怠慢

有藤利子は、雇傭当時には出勤時刻を守つていたが、その後定つた出勤時刻が午前九時であるに拘らず、午前十時乃至十一時に出勤し、夕方は午後六時半以後に帰講する状態となり、無届欠勤も六、七回に及ぶようになつた。それは、同人が午後は自宅に帰り家事をなし、或は夕食の支度をなして夕食後初めて講会事務所へ出頭する有様であるからであつて、かくの如きは甚しく職務怠慢なるのみならず、他の集金人等に対しても悪影響を及ぼし、且つ、講金の集金にも支障を来たすことになり、毎日集金しない為講員の中には掛金の延滞が集積して支払不可能となり、中途解約する者もでる始末であつた。

(ロ)  講金の横領事件

原告代表者は、有藤利子の勤務状態が右の如く不良であつたので、昭和三十年七月二十四日頃同人の集金担当講員の一人である窪添安正及び久川徳一方に赴いて右両名に面接し、その日掛領収帳を検査すると共に講会備付の日計簿と照合したところ、有藤利子は、講員より講金を受け取り乍ら、講会へ納入していないことがあるのを発見したので、有藤利子担当の全講員について同様の方法で調査した結果、有藤利子は、別紙一覧表記載の日にそれぞれ同表記載の講員から集金をした合計四千百七十円の金員を横領していることが判明した。

ところが有藤利子は自己の解雇理由の主たるものが右講金横領の事実であることを察知し、昭和三十年八月二十四日(解雇言渡の日)に二千四百五十円、同月二十六日に七百六十円、同月二十七日に百二十円合計三千三百三十円を弁償した。

(ハ)  尚有藤利子は、有夫の身であるのに情夫を持ち、その為に前記のような出勤時刻の不正確、職務怠慢の事態を惹起したものとも考えられ、そのまま放置すれば、講金横領額は漸増して講会に如何なる迷惑を及ぼすかも知れない状況にあつた。そして有藤利子を解雇することについては、講員全員の支持を得ているものである。

(四)  ところが被告は、有藤利子の申立に基き、昭和三十年十一月二十一日原告に対し、原告は、有藤利子が労働組合を結成しようとした為に同人を解雇したもので不当労働行為に該当する(命令第三項については労働組合法第七条第四号の不当労働行為)として、前記命令をなし、その命令は原告の本訴提起の日より一ケ月以内である昭和三十年十一月二十二日原告に送達された。

(五)  然し乍ら、原告が有藤利子を解雇したのは、前記の理由により民法第六百二十七条、第六百二十八条に基いてしたものであつて、なんら不当労働行為に問擬さるべき筋合はないのである。原告は、有藤利子の勤務状態についての前記のような事情の判明した昭和三十年七月下旬、既に同人の解雇を決意し、後任として訴外山本正子を雇傭することを内定していた程である。

もつとも、有藤利子が昭和三十年八月中旬頃労働組合を結成しようと企図したが結局不成功に終つたことがある模様であるが、それは、他の事務員(講会の雇傭する事務員は全部で六名であつた。)が誰も賛成しなかつたからであつて、原告は組合結成阻止に毫も関与しておらず、有藤利子を解雇したのも前記解雇理由による外なんら他意のないものである。

労働組合員或は労働組合を結成せんとする労働者なるが故に雇傭契約を無視してまで保護されるとか、或は雇傭を継続することができない事由のある者をも解雇できないとかいう趣旨の労働関係法規は存在しないのである。

以上を要するに、被告のなした前記命令は、労働組合法の適用の誤り民法第二章第八節雇傭に規定する使用者の権利を無視する違法の命令で取り消さるべきであるから、その取消を求める為本訴請求に及んだと述べた。(立証省略)

被告代表者及び指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、

(一)  原告主張の請求原因(一)の事実、同(二)の事実中原告がその主張の日に有藤利子を雇傭したこと及び雇傭条件(5)(7)の事実、同(三)の事実中原告がその主張の日に有藤利子を解雇した事実、並びに同(四)の事実は認める。同(三)の(イ)の事実中無届欠勤が月六、七回に及んだとの点、同(三)の(ロ)の事実中横領の事実及び同(三)の(ハ)の事実中有藤利子を解雇したことについて講員全員の支持を得ているとの点は否認する。同(三)の(ハ)の事実中有藤利子に情夫があるとの点は知らない。その余は争う。

(二)  即ち、

(1)  原告主張の請求原因(二)については、有藤利子は、単なる集金人としてではなく、集金並びに勧誘員として雇傭されたもので、又雇傭条件(6)についても、給料の外に自転車手当及び勧誘手当が支給されていたものである。又雇傭条件(1)については、雇傭契約に際し、有藤利子が時間的にしばられることは困る旨の希望を述べた際、原告代表者が時間厳守の必要のあることを明確にせず、あいまいな応答をしたので当事者に意思の疎通を欠き、その点は雇傭条件の一として確約されたものとは認め難い。更に雇傭条件(2)乃至(4)については、契約当初から当事者間に明瞭にされたものではなく、(2)の事務的なことがらについては、有藤利子は雇傭されて後同僚に習つて知つたに過ぎないのである。

(2)  同(三)の(イ)については、有藤利子の出勤時刻、帰講時刻は区々であつたが、それは、前記のような杜撰な雇傭契約に起因するのみならず、これによつては講会の営業上、運営上、有藤利子を解雇しなければならない程の支障を来たしたとは認められない。而も有藤利子の給与は原告の集金勧誘従業員中最上位であることから考えても、出勤、帰講の時間厳守は、職務の性質上その従業員の成績と特に因果関係はなく、むしろ、拘束時間外の勤務をも敢てすることが成績をあげることであり、これが講会の業務運営上、その業績と結びつく特異な勤務実態であるとさえ解されるのであつて、有藤利子の出勤、帰講時刻が区々であることが直ちに同人の職務怠慢とはならないのである。又成績、勤務状態共に有藤利子と同程度の永幡秀美は解雇されていないことにも注意すべきである。

(3)  同(三)の(ロ)については、原告は有藤利子を解雇した昭和三十年八月二十四日迄に講金横領の調査ができていなかつたのみならず、被告高知地方労働委員会の審問過程で自ら横領の事実はなかつたことを認めているのである。尚原告は、講会員の日掛領収帳の日付と入金日計表の集金年月日との不突合いを指摘して、その間を横領しているとの考え方に立つているようであるが、それのみによつては、横領の事実は判明しないのである。それで、原告が横領の事実の存否の調査もなさず、単なる憶測によつて解雇という重大な行為をしたことは不当と断ぜざるを得ない。又、原告は、有藤利子があたかも講金を着服横領していたものをやむなく弁償した如く述べているが、右は、有藤利子が講会員の都合で未納となつている講金を自己の解雇を窺知した昭和三十年八月二十三日から翌二十四日にかけて集金し、同月二十四日に納入することによつて自己の任務を完うしたに過ぎないものであり、同月二十六日、二十七日に原告へ入金したのは、原告より一方的に入金せしめたものでありその結果有藤利子が六百四十円の過払いとなつている程である。

(4)  同(三)の(ハ)の事実中情夫云々の点は新たな主張である上、個人的私生活に関することであるから仮にその事実があつたとしても原告の主張する解雇を正当付ける理由とはならない。

(三)  有藤利子は、昭和三十年八月十三日元原告の従業員であつた福留善子が理由なく解雇されたのを契機として労働組合結成を企図し、同月十五日同僚に対してこれに対する賛成を求めたが、原告代表者はその頃右の事情を察知し、且つ労働組合結成を嫌悪、忌避し他の従業員に対し、「組合を結成すれば解雇する」旨公言し、組合結成妨害のためけん制していたのである。又、原告代表者は、原告の従業員仙頭秋子が本件に関する被告高知地方労働委員会の不当労働行為事件審問の際に、有藤利子に有利な証言及び証拠の提供をした為同人に対し、その取消を求めこれを拒否されるや同人の伯母を通じて同人の退職を強要したのである。

右は夫々労働組合法第七条第一号、第四号の不当労働行為であることは明らかであり、被告は前記(二)の事実と右事実を比較検討し、原告の有藤利子に対する支配的解雇原因が不当労働行為に該るとの観点から本件救済命令を発したものであり右命令は適法であつて毫もこれが取消の必要を認めないのである。よつて、原告の請求は棄却すべきである。

と述べた。(立証省略)

理由

(一)  原告主張の請求原因(一)の事実及び原告が昭和三十年四月十三日有藤利子を雇傭し、同年八月二十四日これを解雇したこと、並びに同(四)の事実は当事者間に争がなく、有藤利子が集金及び新規講員の勧誘募集の事務に従事し本給以外に歩合による募集手当の支給を受けていたことは証人有藤利子の供述及び成立に争のない乙第一号証によつて明らかである。

(二)  そこで先ず、右解雇について原告主張のような解雇事由があつたかどうかについて判断する。

(1)  原告主張の(三)の(イ)について見るに、証人橋本繁子、横田春喜、原告代表者本人の各供述を綜合すると、有藤利子の出勤時間は同僚のそれに比し遅く、午前十時を過ぎることもあつたこと、又集金等を済ませて帰講する時刻も遅かつたことが認められるけれども、成立に争のない乙第九号証中の原告代表者の供述を記載した部分、証人有藤利子、橋本繁子、竹下百枝の各供述を綜合すると、原告の従業員の勤務時間は大体午前九時から午後五時迄、即ち集金人について言えば、午前九時に一旦出勤してから集金、勧誘に廻り、午後五時迄に帰講することになつていたが、それについて、明確な規則のようなものはなく、特に有藤利子の場合の場合には、雇傭契約に際し、原告との間に、右勤務時間は、そう厳格に守らなくても差支えない旨の特約乃至了解事項があつたことが認められる。証人沼和男及び原告代表者本人の供述中右認定に反する趣旨の部分は、証人有藤利子、竹下百枝の各供述に照らして信用できない。

又、原告は、有藤利子は月六、七回もの無届欠勤をした旨主張するけれども、原告代表者本人の供述によつて認められる原告の集金事務の取扱方法によれば、集金人が欠勤すれば、その該当日のその集金人の日計表は作成されていない理であるところ、検証の結果(第十六回弁論期日)及び証人関田軍志の供述により真正に成立したことの認められる乙第二号証を綜合すれば、有藤利子が原告に雇傭された昭和三十年四月十三日から、原告に解雇された同年八月二十四日迄の間で、同人の日計表が作成されていない日は、四月十七日と八月九日の二回に過ぎないことが認められるので他は全部出勤していたことが明らかである。(而も成立に争のない乙第十一号証によれば八月九日は原告の公休日であつたことが認められる。)

更に、原告は有藤利子が毎日集金しない為、中途解約する者ができたと主張するけれども、毎日集金しなかつたこと、及び特に有藤利子担当の講員に中途解約者が多かつたことを認めるに足る証拠はない。

一方、成立に争のない乙第一号証によれば、有藤利子は本給が従業員中最下位のクラスに属するに拘らず、募集手当が多い為、八月分を除いて従業員中最高の額の給与を受けていたこと即ち、勤務実績があがつていたことが認められる。

以上のような情況の下では、有藤利子は前記のように出勤帰講時刻が時に遅れることによつて原告に多少の迷惑をかけたにせよ、それだけで直に同人を解雇すべき事由があるとも言えないし、原告がそれだけで解雇を決意したとも考えられない。因みに、成立に争のない乙第十一号証及び証人横田春喜の供述によれば、有藤利子の同僚である永幡秀美も亦有藤利子と相前後して出勤していたことが認められるのである。

(2)  次に原告主張の(三)の(ロ)について見るに、原告は講員の所持する契約証書に有藤利子の領収印があるのに、それに対応する日計表に集金済の旨の記載がない分は、同人が講金を横領しているものであると主張するものと解せられるが、証人有藤利子、中熊幸子、原告代表者本人の各供述によれば、講員の都合により集金ができず、後日まとめて集金したときは、その日の日計表にその金額を記載すると共に契約証書の領収印欄には遡つて集金人の領収印(集金人の認印)を押捺する慣例になつていること、及び集金に行つても集金できないことが少くないことが認められるから、横領の犯意の点は別として、有藤利子が講金を集金しておきながらこれを原告に納入しなかつたことがあるかどうかは或日時を基準として、その日迄の契約証書に押捺された領収印の個数に相当する講金の総額と、同日迄の日計表に記載された集金済金額の合計とを比較するのでなければ判明せず、従つて原告提出にかゝる甲第一乃至第二十五号証(枝番を含む)のみによつては判明しないのである。(尤も、数回分の講金を着服していてもたまたま調査日迄に弁償していれば右の各総額は一致する訳である。)

そこで、前記乙第二号証と検証の結果(第十六、十七、十八回弁論期日)を綜合し、尚大井千枝の分については成立に争のない甲第二号証の二、清水清美の分については証人関田軍志、有藤利子、門田稲美の各供述をも綜合して、原告が、有藤利子が講金を横領したという各講員について、有藤利子が原告に雇傭された昭和三十年四月十三日以降、同人が解雇された日の前日である同年八月二十三日(原告のいう有藤利子が講金の横領分を弁償する以前)迄の間に於ける契約証書に押捺された有藤利子の領収印の個数に相当する講金の総額と、有藤利子作成の日計表に記載された集金済金額の合計とを比較するに、米田要太郎、門田君子、伊藤良子、大原登茂恵、米田文恵、大井千枝、浜田秀雄、泉寅(二口)、大井小藤、小笠原佐治子(二口)、岩井千津、窪添安正(二口)、の分については、いずれも契約証書による領収総額に比し、日計表記載金額の合計に不足のないこと及び、清水清美の分は一回分百円、久川徳市の分は一回分二百円、楠瀬巌の分は一回分五十円、荒井京子の分は二回分百円、大谷照子の分は六回分百八十円、田中英子の分は二回分二百円別役秋子の分は二回分六十円、大井豊美の分は一回分百円それぞれ不足しているが、いずれも翌日の八月二十四日に完納されていることが認められる。(尚、西森豊茂子の分は一回分五十円不足しているが、既に満期になつているのでその分は別途に解決済になつていると考えられる。)

ところで、右各不足分は、右のようにいずれもその翌日に原告に納入されていること及び、講員の中には講金の支払を延滞する者もいたこと並びに有藤利子の供述によると同人は講員の都合などで昼間集金できず夜集金したときは、翌日の日計表に記載した原告に納入していたことが認められること及び証人内村佐喜恵、田岡千津子の各供述と右各証人有藤利子の各供述により真正に成立したことの認められる乙第三号証を綜合すれば、右不足分も原告主張のように有藤利子が横領していて八月二十四日に弁償したものであるとは認められない。原告代表者本人の供述中前記各認定に反する趣旨の部分は前記認定の資に供した各証拠に照らして信用できない。

(3)  原告主張の(三)の(ハ)については、仮に有藤利子に情夫があつたとしても、その一事を以て同人を解雇する必要があつたとも考えられないのみならず、被告の審問手続の過程に於ては、原告代表者はそのことを解雇事由として主張していなかつたこと(従つて、それによつて、解雇を決意したものではないこと)は、成立に争のない乙第九乃至第十三号証によつて明らかである。

(三)  成立に争のない乙第九乃至第十三号証、証人竹下百枝、仙頭秋子、福留善子、中熊幸子、有藤利子、横田春喜、関田軍志の各供述を綜合すると、

(1)  有藤利子は、同僚である福留善子が、昭和三十年八月上旬原告から理由なく解雇されたところから、労働組合の結成の必要を痛感すると共に、労働組合を結成することを決意し、その頃、高知労働基準局や、高知県労政事務所でその手続等を問い合わせ、又総評の事務所へ赴いて、総評へ加入できることを確めた上、先ず、同僚の横田春喜、竹下百枝等に労働組合を結成しようと誘いかけたこと。

(2)  原告代表者は、同年八月十八日頃には既に右の事実を察知しており、労働組合の結成されることを嫌悪し、結成を妨害しようとしていたこと。

(3)  原告代表者は、有藤利子が八月二十六日に、解雇理由を確めに行つた際、同人を解雇した理由は労働組合を結成するような悪辣な人間は雇う訳にはいかないし、出勤時間も遅いからである旨答えたこと、及び被告の事務局職員関田軍志に対しても、有藤利子が労働組合を作ろうとしたこともその解雇理由の一であると述べていること。

右の各事実が認められる。乙第九号証及び乙第十三号証中の原告代表者本人の供述を記載した部分並びに原告代表者本人の供述中右各認定に反する部分は、右各認定の資に供した諸証拠及び成立に争のない乙第十一号証及び証人仙頭秋子の供述により真正に成立したことの認められる乙第四号証(仙頭秋子作成部分)乙第五号証並びに証人仙頭秋子、沼和男の各供述を綜合して認められる左の事実即ち、原告の集金人である仙頭秋子は、被告に提出する為、昭和三十年八月二十六日に原告代表者が有藤利子に対して、組合を作るような思想の悪い者は使わないと述べた旨の証明書を書いたところ、原告代表者は沼和男を通じて右の証明を取り消すよう仙頭秋子に強要したことに照らして信用できない。

(四)  尤も、証人山本正子、横田春喜、原告代表者本人の各供述によれば、原告代表者は、昭和三十年七月下旬頃山本正子に対して原告の集金人として就労して貰いたい旨申し入れている事実が認められるけれども、以上の各事実を綜合勘案すると、原告代表者は右の当時既に確定的に有藤利子を解雇する決意をしていたものとは考えられず、有藤利子の勤務時間については前記のような一種の了解事項があり、同人の勤務ぶりは前記のように勤務時間の面からは必らずしも完全なものでなかつたので、原告代表者は、場合によつては同人を解雇せんものと考えていたところ、その後たまたま有藤利子が労働組合結成を企図し、同僚にも働きかけていることを察知したので、こゝにいよいよ同人の解雇を決意したものと見るのが相当である。即ち、原告の有藤利子解雇の決定的動機は同人が労働組合を結成しようとしたことにあり、労働組合法第七条第一号の不当労働行為に該当するといわなければならない。それで、被告の本件命令中第一、二項は適法であるというべきである。

(五)  尚原告は被告の本件命令第三項については明らかに争わず、それが違法である旨の主張すらしていないので、原告の本訴請求中本件命令第三項の取消を求める部分は既にこの点に於て棄却を免れない。

それで結局原告の本訴請求は全部理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 合田得太郎 北後陽三 篠清)

(別紙)

命令表示

一、被申立人は、申立人に対する昭和三十年八月二十四日付解雇を取消し、申立人を原職に復帰せしめなければならない。

被申立人は、申立人に対し、同年八月二十五日から解雇取消に至る迄の間受くべかりし給与相当額を支払うと共に解雇当時と同一の賃金、その他の待遇をしなければならない。

二、被申立人は、本命令の交附の日から五日以内に、高知新聞夕刊に二段抜き二、二センチ以上大で左記内容の解雇取消広告をしなければならない。

解雇取消広告

八月三十日付本欄の集金人有藤利子殿に対する解雇公告は、全く当方の誤りでありましたので之を取消すと共に御当人に対して著しく社会的信用と名誉を傷けたことを深く御詑び申し上げます。

昭和三十年十一月 日

高知市農人町五番地(電四、五四三番)

高知双葉講 管理人

仲井兼熊

三、被申立人は、本件に関して、申立人の為証言をした仙頭秋子に対し、其故を以て不利益な取扱をしてはならない。

(別紙一覧表省略)

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